「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」のパブリックコメントを提出しました
2023年2月16日、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」のパブリックコメントを厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課に提出しました。
sienteでは、より多様な立場にある女性たちが、それぞれの立場によって生じる困難が解消できるような支援が届く運用になることを強く願っております。
多様性社会の中では、既存の困難を抱えた人たちだけでなく、様々な社会的要素から、様々な困難を抱える人が時の進化とともに生まれていると感じており、より細かく現実を見て、そのニーズを汲み取っていくことが大切だと考えていることから、下記の内容にて提出しました。
●「1.これまでの経緯」にて、婦人保護事業は「売春を行うおそれのある女子」を対象とした保護が原点だとあるものの、時代が下り、問題が多様化し、困難も複合的になってきたとありますが、「困難を抱えた女性」とはどのような女性を指すのでしょうか。
この施策で支援対象とされる困難には「性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により、日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える、あるいは抱える恐れのある女性」とありますが、基本方針全体を読むと、性的な被害やDV・ストーカー被害・若年女性被害に偏っていると感じます。
女性が抱える困難は、他にも多くあるはずです。再度、改めて「女性とは」「困難とは」を定義する必要があるのではないでしょうか。多様な困難、複合的な困難が現代社会にあると基本方針に書かれています。その言葉通りに、より多様な困難を解消できる基本方針に改めていただきたいです。
●第2「困難な問題を抱える女性への支援のための施策の内容に関する事項」の「1.法における施策の対象者及び基本理念」において、「支援対象者が目指すべき自立の概念は経済的な自立のみを指すものではなく、個々の者の状況や希望、意思に応じて、必要な福祉的サービス等も活用しながら、安定的に日常生活や社会生活を営めることを含むものであり、本人の意思を最大限に尊重しつつ、本人が抱えている問題や置かれている環境に応じた自立を目指す必要がある」とあります。
しかし、「本人の意思を最大限に尊重」するのであれば、次の点で矛盾が起こります。
①「性売買等の性的搾取・性的虐待・性暴力の被害により、尊厳を著しく傷つけられた女性には、これらの搾取等の構造から離れ、安心できる安定的な生活を確立し、心身の回復を時間をかけて図っていくことが必要である」とありますが、「性売買等」とは、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業も含むのでしょうか。性風俗店等の勤務やAV成人誌等への出演を選ぶことは職業選択の1つです。
むしろ、「性売買等の性的搾取・性的虐待・性暴力の被害」とひとつにまとめることで、女性に対する暴力や人権侵害や犯罪が生まれる危険性のある個人売春や個人間撮影と、健全に業として営まれている性風俗店やAVの事業者が混同されてしまいます。混同することにより、健全に業として営んでいても「あの仕事は悪質である」というイメージが世間に広がり、職業差別や偏見が生まれます。結果的に、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業で働く女性が、「救わなければならないかわいそうな人」「本来は働くべきでない場所で働いている人」等という偏見の目で見られるという困難を生んでしまいます。
また、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業には、事務員や制作等の裏方スタッフとして働く女性もいます。その人たちは「性売買等の性的搾取・性的虐待・性暴力の加害者」と見なされてしまうという被害が生まれています。
性風俗やAVの仕事から離れることが良いことである、そこで働くことは搾取される被害であるという一面的な価値観を、この法律で植え付けないようお願いします。職業差別や偏見の目に晒されるという新しい被害を生み出してしまいます。
②この基本方針では「女性」を対象としていますが、生まれた時の性別が女性で現在も女性ある人だけが対象なのか、出生後に性転換し日常では「女性」であるが戸籍は「男性」の人は支援の対象とはされないのかといった「ジェンダー」に関することが明らかにされていません。
トランスジェンダーの方々に関する部分では「人権侵害・差別」により直面する困難に配慮するとされていますが、それ以外にも例えば、「高額な性転換手術により経済面の不安を抱えるもののそれを気軽に相談し解消できる専門機関がない」「性別的な偏見と職業的な偏見が伴い、家を借りにくい」等、生活上での困難を抱えやすいという特性を抱えています。
トランスジェンダーとして生きるための費用を稼ぐために、性風俗店やAV、成人雑誌等で働く方は少なくありません。トランスジェンダーとして生きるという選択肢を尊重するための仕事として、性風俗店やAV、成人雑誌等があるわけです。そういった方が抱える困難も、現在の基本方針に含まれていません。
さらには、トランスジェンダー以外にもセクシャルマイノリティがあります。
多様な性があり、それに伴う多様な困難があるはずです。多様な困難を支援するのがこの法律の趣旨であるはずです。その多様な困難を解消するというニーズに応えられるような運用を願います。
●第2の「2.国、都道府県及び市町村の役割分担と連携」において、「困難な問題を抱える女性への支援に係る施策の普及・啓発、関係者の研修等に努める」とありますが、関係者の研修等は民間団体を含むのであれば、広く、一般的に参加しやすいようであってほしいと願います。
また、「困難な問題を抱える女性への支援を行う民間団体が安全かつ安定的に運営を継続するにあたっての支援や、女性支援を行う意向のある団体の立ち上げに関する支援等を検討し、実施するよう努める」とありますが、広く、公平に支援していただくとともに、多様な困難を支援できるような形での運営をお願いいたします。
●第2の「3.支援の基本的な考え方」の①にて、「本人の自己決定」及び「自己選択」が重要な要素であると書かれています。貧困、シングルマザー、奨学金の返済、体が弱く長時間の決まった労働ができないなどの困難を抱えた女性は、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業で働くことを選ぶことら少なからずあります。それは、「困難を自ら解消するための選択」であるため、セックスワークに就くことも「本人の自己決定」及び「自己選択」として認めてほしいです。
●第2の「4.支援に関わる関係機関等」の「(4)民間団体等」にて、協働する民間団体は、幅広く公平に選んでください。
また、「困難な問題を抱える女性が、性暴力や性虐待、性的搾取等の構造から離脱して生活することができるように支援することの重要性を十分に理解し、これらの性暴力や性虐待、性的搾取等の構造に再度取り込まれないように支援を行う意向のある民間団体が各地域で育成・確保されるように留意する」とありますが、前記のとおり、「性売買等の性的搾取」については、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業といった仕事は含むことで、新たな別の困難が生まれます。健全運営を業として行なっている事業者は含まないようお願いします。
●第2の5「支援の内容」 の「(3)相談支援」「(8)自立支援」の「①心理的支援」についても、同様に「性暴力や性虐待、性的搾取等の性的な被害により、尊前を著しく傷つけられた女性には、これらの暴力等の構造から~」とありますが、性暴力や性虐待は暴力であるが、性的搾取も暴力として並列するのは間違っていると思います。
働く女性の尊厳や人権を侵害し、まさに人を物として扱って人身売買のようにその仕事が行われる形で性的搾取があるならば、それは「人身売買」です。「困難」というレベルではありません。
そのため、この3つを並列して暴力等の構造と一括りにするのは改めていただきたいです。
●第2の5 「(8)自立支援」において、個々の者の状況や希望、意思に応じた支援をするとされています。そうであるならば、個人の生き方に対し、これは正しくて、これは正しくないと支援側の考えを押し付けたりるような支援は行わないでください。例えば、特定の職業を辞めるように説得するのは価値観の押し付けであり、多様な価値観のもと個人が尊重されて生きる社会の構築に反します。
●6.支援の体制「(1)連携の基本的な考え方」において、「困難な問題を抱える女性の支援に関わる全ての関係機関・団体が、対応な関係性の下、女性本人を中心に、連携・協働することが重要である」とありますが、現在、支援体制側に偏りがあり、そもそも特定の女性しか支援されない状況があります。
つまり、この法律で規定されている「若年被害者」「DVやストーカー被害者」「性暴力被害者」といった困難を抱える女性のみが支援対象となっており、またその支援の方法も多様な支援ではなく一定の決まった支援がされています。
より多様な困難に対応できるよう基本方針自体を検討し直し、多様な困難を解消するというニーズに応えられるよう支援側の体制にも多様性を求めます。
●6.支援の体制「(3)民間団体との連携体制」において、女性支援を行う意向のある民間団体の立ち上げの支援、運営継続の支援、人材育成の支援については、偏りなく、多様な支援団体に支援が行き渡り、多様な支援団体が立ち上がる可能性を広げるようであっていただきたいです。
また、男女共同参画の視点から「女性支援」と性別を「女性」に限定するのではなく、トランスジェンダー等の多様な性も受け入れるようで会ってほしいと思います。様々な方が、その立場から生まれる困難を抱え持っています。その立場による困難が生まれ、支援を求めた時に支援が行き渡るよう、多様な支援団体を対象としていただきたいです。
また、「性搾取等の構造の理解が不十分である等の必ずしも困難な問題を抱える女性に対する支援として適切でない団体もあると指摘がある」とのことですが、この適切でない団体とは一体どのような団体を指すのかがわかりません。
現在、関わっている有識者の中にも、性的被害を専門としない団体もあり性搾取等の構造の理解が不十分である団体もあるように見受けられますが、どのようにして「性搾取等の構造の理解が不十分である」と判断するのかが不明です。
そもそも「性搾取」というものが、搾取構造のある犯罪集団を指すのか、それともパパ活のような個人間の搾取を指すのかも明らかにされていません。
なお、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業の多くが、女性の意思を尊重し、働きやすい環境を整え、性感染症等の健康面にも配慮した運営をしています。そのような女性が働く場所の一つが、「性搾取」であると捉えるのは、女性の働く権利を奪い、職業選択の自由に違反していると考えます。
性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業で働くことも、女性の人生や職業の選択のひとつです。その意思を尊重した上で、その仕事で生まれた「世間体から仕事のことを秘密にしており相談できない孤独」「仕事について家族や友人から理解されず反対されている苦しさ」「家を借りるのに苦労している」「携帯電話やクレジットカードの審査がおりにくい」等の生きる上、生活する上での困難を解消できるよう支援するのが適切であると考えます。
併せて、この文末では、「連携にあたっては、性暴力や性的虐待、性的搾取等の構造から離れて生活することが出来るよう支援することの重要性を十分に理解し、これらの性暴力や性的虐待、性的搾取等の構造に再度取り込まれないように支援を行う意向のある民間団体との連携となるよう留意する」と締めくくられています。
ここで、性暴力や性的虐待、性的搾取等が並列されていることの問題については、上記で述べた通りですが、「性的搾取」が性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業で働くことも含むのであれば、「性的搾取等の構造から離れて生活する」ことが支援の正しいあり方とするのは、価値観の押し付けです。
また、「再度取り込まれないように」とありますが、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業で働きたいと望むことを妨げるのであれば、それは「個々の者の状況や希望、意思に応じた支援」といえません。
性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業は、ひとつの仕事であり、そこで望んで働くことは、女性の職業決定の1つであるという考えのもと支援を行う団体も連携対象としていただきたいです。
上記のような点から、連携対象とする際は、性風俗店等の性産業、AVや成人誌等の性の娯楽産業について詳しく、また仕事をする際に心身の健康を守り、人権が損なわれない働き方等について知識やノウハウのある団体としていただきたいです。
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